大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大分地方裁判所 昭和48年(ワ)673号 判決 1974年4月01日

原告 来島好男

右訴訟代理人弁護士 小関虎之助

右同 向井一正

被告 宮崎義一

右訴訟代理人弁護士 淵辰吉

右同 河野浩

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告の請求の趣旨

1、被告は原告に対し別紙目録(一)記載の各土地(以下本件土地ともいう)は原告の所有であることを確認する。

2、被告は原告に対し、本件各土地についての別紙目録(二)記載の仮登記(以下本件仮登記ともいう)の抹消登記手続をせよ。

3、訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

(本案前の答弁)

1、原告の訴を却下する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

(一)  原告は本件各土地を所有している。

(二)  原・被告間に本件各土地について争いがある。原・被告間の大分地方裁判所昭和四四年(ワ)第二五号事件で、被告は昭和三八年一〇月一日原告から本件土地を代金六〇〇万円で買受け、昭和四一年二月一二日所有権移転請求権保全の仮登記をしたと称し、所有権移転の本登記手続並に本件土地の引渡を訴求し、原告は右事件において敗訴した。

(三)  しかしながら、原告は被告に対し本件土地を売渡していない。

(四)  原告は昭和三〇年頃より被告から高利で借り入れていたが、仕事が思わしくなくて昭和三四年と同三八年六月頃に債権者会議が開かれ、その際原告は被告から、本件土地を債権者に差押えられないようにしようと奨められ、昭和三八年一〇月一日原・被告は本件土地を被告に売渡す旨の公正証書を作成したものであり、右は通謀虚偽表示による無効のものである。

(五)  昭和四一年二月になって被告は貸付金六〇〇万円の保全のために本件土地の売買予約の仮登記をしてくれというのでその旨の仮登記をし、右は代物弁済予約の仮登記である。

(六)  本件土地は昭和三五年二月一日国から原告に対し自作農創設特別措置法四一条二項の規定により売渡されたものであり、開墾を完了すべき時期が売渡時から五年とされており農地法七三条で更にそれから三年間処分が制限されているので昭和四二年二月一二日には所有権移転請求権も発生する由もなく、昭和三八年一〇月一日に売渡せるものでもない。

右制限期間内に農林大臣の許可を受けないでした売買は無効であり、しかも右売買の如きものには農林大臣の許可はできないことになっていて(昭和二七年一二月一〇日付農地第五一二九号事務次官通達)被告が所有権を取得することは不可能である。

(七)  よって、請求の趣旨の裁判を求める。

二、被告

(本案前の抗弁)

(一) 既判力に牴触することの主張

被告は本件土地について原告を相手として、請求原因第二項記載の如き訴訟をなし、被告勝訴のうえ同判決は確定した(大分地方裁判所昭和四四年(ワ)第二五号福岡高等裁判所昭和四六年(ネ)第一〇七号、同庁昭和四七年(ネオ)第一七号)。被告は右判決によって農地法第五条第一項第三号の規定にもとづき大分県知事宛所有権移転の届出をなし、昭和四八年六月一四日その効力が生じ、被告に所有権が移転した。

よって、原告は所有権確認を訴訟物として本訴請求をなしているが、右訴訟物は前訴における訴訟物と同一であるから、前訴の既判力に牴触する。

また、原告の請求の趣旨第2項については、明らかに前訴の既判力に牴触する。

(二) 所有権確認について訴の利益がないことの主張

仮りに原告が本件各土地について所有権を有する旨の確認がなされたとしても、既に前訴判決において「大分県知事宛所有権移転の許可申請手続をすること、許可のあったときは被告名義に仮登記を本登記手続すること、大分県知事の許可があったときは被告は本件土地を引渡すこと」が確定されているので、原告が右確認を求める利益がない。

(請求原因に対する認否)

請求原因第(一)項、同第(三)項、同第(五)項は否認する。

同第(二)項のうち「原被告間に右土地について争いがある。」との部分は否認し、その余は認める。前訴の訴訟で所有権帰属が確定し、争いはない。

同第(四)項のうち、被告が原告に昭和三〇年頃より金員を貸与したこと、原告主張の日時に公正証書を作成したことは認めるが、その余は不知ないし否認する。

同第(六)項のうち、本件土地が国から原告に対し自創法第四一条第二項の規定により売渡されたものであることは認めるが、その余は争う。

三、原告の本案前の抗弁に対する主張

被告は本件各土地について原告の所有権を争っているので確認の利益は存在する。

本件土地について訴外中西富子が大分地方裁判所に強制競売の申立をして競売手続が開始されているが、他にも債権者がおり、いつ配当要求ないし競売申立をするかわからない情勢にある。配当要求が少い場合には配当残金がでる。被告が所有権を主張すれば、これら多数の債権者との間の訴訟や配当残金の交付を受ける者が原告か被告かということで紛争が起きることが予想され、詐害行為取消訴訟も起きるやもわからない。

本件各土地は不動産登記法一四六条のもとでは訴外中西や今後の競売申立人らの第三者の承諾を要するため原告名義の所有権移転登記は事実上できず、前訴判決の主文の履行はなされていない。

本訴で原告が勝訴すれば、本件土地に関して予想される将来の多数の紛争は予め解決されることになり、本訴が将来の紛争を予防する有用な訴訟であることが理解される。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、まず、被告主張の本案前の抗弁について判断する。

≪証拠省略≫、当事者間に争いのない事実によると、被告は原告を相手方として、本件各土地についての所有権移転登記等請求事件を当裁判所に提起し(昭和四四年(ワ)第二五号)、右事件について昭和四六年一月二二日次のとおりの判決の言渡がなされた「一、原告(被告宮崎義一のこと。以下同じ。)の主位的請求を棄却する。

二、被告(原告来島好男のこと。以下同じ。)は原告に対し、別紙目録記載の不動産(本件各土地と同一のもの)について、昭和四一年二月一二日付売買予約を原因とする所有権移転について大分県知事あて農地法第五条の許可申請手続をせよ。

三、被告は原告に対し、前項の不動産について第二項の許可があったときは、大分地方法務局別府出張所昭和四一年二月一二日受付第一七〇〇号所有権移転請求権保全の仮登記(本件仮登記と同一のもの)にもとづく本登記手続をせよ。

四、被告は原告に対し第二項の許可があったときは前項の不動産を引渡せ。

五、原告その余の請求を棄却する。

六、訴訟費用は被告の負担とする。」

右の判決に対し、原告は福岡高等裁判所に控訴(昭和四六年(ネ)第一〇七号)したが、昭和四七年一月二七日右控訴は棄却され、右控訴棄却の判決に対し原告は更に上告したが、上告理由書の提出がなかったため、同年五月四日福岡高等裁判所において上告却下の決定がなされ、同月一四日の経過によって右判決が確定(以下確定判決ともいう)されたことが認められる。

二、被告は、原告の本訴請求は、前記確定判決と同一訴訟物の関係にあるから、確定判決の既判力が及ぶため、不適法な訴えであるから却下すべきであると主張するので、まずこの点について判断を示すこととする。

原告の本訴請求は、前記請求の趣旨記載のとおり、本件各土地の所有権確認と本件仮登記の抹消登記手続を求める請求の二つの訴訟物であり、右確認ならびに請求権を理由あらしめる事実は、請求原因記載のとおりであって、いずれも前記確定判決の最終口頭弁論終結時以前の事実を基礎にしたものであることが認められる一方、前記確定判決第三項によれば、被告は原告に対し、本件各土地について大分県知事あて農地法第五条の許可を条件として本件仮登記にもとづく所有権移転の本登記請求権を有することをその内容とする給付判決であることが認められる。

1、そこで、まず原告の本訴請求のうち、本件土地の所有権確認の訴と確定判決とを対比してみると、確定判決は、被告が原告に対して本件各土地につき所有権移転登記手続請求権を有するか否か、つまりその訴訟物は登記請求権であって、所有権の帰属そのものが訴訟物の対象とはなっておらない。(従って、所有権の帰属について既判力を得ようとすれば、登記請求権と併せて所有権確認をも求めなければならない。)

従って、右の原告の本訴請求は確定判決とその訴訟物を異にするので、右訴についてまで既判力は及ばないものと解すべきである。

2  次に、原告の本件仮登記の抹消登記手続を求める訴については、前記確定判決と訴訟物を同一にすると解すべきである。

すなわち、仮登記にもとづく所有権移転の本登記請求権は、仮登記原因が有効であると判断された場合に生ずる登記請求権であるのに反し、仮登記抹消登記請求権は、仮登記原因の無効又は取消事由等が存在すると判断された場合に生ずる登記請求権である。

本件の場合を具体的に検討すると、前記確定判決では、その最終口頭弁論終結時までの理由あらしめる事実にもとづき、本件仮登記にもとづく所有権移転の本登記請求権を認容したものであって、まさに仮登記の有効性すなわち仮登記原因の有効無効についてもその判断の対象としたうえ、本登記請求権を認容したものである。一方原告の訴求する右仮登記抹消登記請求権は、仮登記原因の無効又は取消事由等がその判断の対象となるべきところ、右事実は前記確定判決と同一の最終口頭弁論終結時以前の事実がその判断の対象とされている。確定判決によって認容された本件仮登記にもとづく本登記請求権は右事実を積極に認容した場合に生ずる登記請求権であるのに反し、原告の訴求する仮登記抹消登記請求権は右事実を消極に認容した場合に生ずる登記請求権であって、右両者の登記請求権は相容れない関係に立つもので、一方が認容されれば、他方は棄却されるという裏腹の関係にある。以上のような関係にある同一物件についての登記請求権を求める訴は、訴訟物が同一の範囲内にあると解するのが相当であり、よって、この点についての原告の請求は不適法であるから却下すべきものである。

三、原告の本件土地についての所有権確認の訴につき、確認の利益があるか否かにつき判断する。

前記確定判決第二項ないし第四項によると、原告は被告に対し、本件各土地の所有権移転のために大分県知事に対し農地法第五条の許可申請手続をなすべき義務を負担し、更に右許可を条件として本件仮登記にもとづく本登記手続ならびに本件土地の引渡義務を負っている。すなわち、原告は被告に対し、大分県知事の許可があれば、所有権移転の本登記手続に応じなければならず、また土地の引渡にも応じなければならない。

ところで≪証拠省略≫によれば、本件各土地についての農地法第五条第一項第三号の規定による大分県知事あての届出書が昭和四八年五月一六日付で提出され、右届出書は同年六月一四日大分県知事に到達してその効力が生じたことが認められ、前記確定判決の条件が成就したことになる。

してみると、原告は前記確定判決にもとづき本件仮登記にもとづく所有権移転の本登記手続ならびに本件土地の引渡に応じなければならない状態にあるから、かような場合に、原告が被告に対して本件土地につき所有権確認を求めたところで、何らの利益がないものといわなければならない。

原告は、確認の利益について、本件土地についての競売申立人又は原告の債権者らと被告との間で新たな紛争が生じるかもしれないことを予想して、本件土地の所有権確認を求めると主張するが、原被告間における所有権確認訴訟は、原被告以外の第三者に対する関係で既判力が及ばないことはもちろんのこと、第三者と被告との間で何らかの紛争が生じればその時点において別個の訴訟によって解決されるべき問題であるから、右原告の主張をもって確認の利益があるとすることはできない。

四、以上二、三で示したように、原告の本訴請求のうち、本件各土地に対する所有権確認の訴については確認の利益がなく、また本件仮登記の抹消登記手続請求権については前記確定判決と同一の訴訟物であるから、原告の本訴請求はいずれも不適法な訴であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 田中正人)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例